未来

義勇さんが夢を見る話

こんな夢を見た。
夢の中の義勇は不思議な青色の服を着ていた。全く見たことのない格好である。竹刀を持ち、学校と思われる建物の門の前で立っていた。そこで、炭治郎くらいの歳の子供たちが門の中へ入っていくのを観察していた。やはりみんな見慣れない服を着ている。制服だろうか。生徒たちは義勇におはようございますと挨拶する。どうやらここでは俺は教師なのだろうと納得した。
そこに炭治郎が現れた。彼の耳に揺れる耳飾りを見た瞬間、こいつを外させなければならないという使命感に駆られた。実力行使で持っていた竹刀を炭治郎に向かって振り下ろす。しかし同時に避けられてしまう。
「すみませーん‼」
謝りながら逃げる炭治郎。次会ったら逃がさない、と決意したところで夢から覚めた。

***

「義勇さん、おはようございます」
目を開けるとそこには炭治郎がいた。炭治郎の顔の横で、トレードマークの耳飾りが揺れる。
さっきまで追いかけていた耳飾り……。
夢うつつで炭治郎の耳飾りに触れる。手でそれを弄びながらぼうっと眺めていたが、はっと我に帰りすごすごと手を引っ込めた。突然耳飾りに触れてきた義勇に、炭治郎は不思議そうな顔をしていた。気まずい……寝ぼけていると思われただろうか。しかし言い訳が思いつかない。
「おはよう、また来たのか」
義勇は話題を変えて誤魔化した。炭治郎にはなぜかここ最近、四六時中つきまとわれているのだ。
まだ朝も早いのにもういるのか……しかも勝手に屋敷にまで入り込んで……寝顔も見に来たのか……。呆れつつも感心しながら起き上がる。
「はい、すみません」
謝るくらいなら来るな。心の中でツッコミを入れる義勇。
そういえば、夢の中でも同じだったな。すみませんと謝りながらも、耳飾りを外さない。褒められることではないとわかっているけれど、自分の道を突き進むのだろう。大した弟弟子である。義勇はそんなことを考えながら、もう一度炭治郎の耳飾りに触れる。
「いつもつけているが、この耳飾りは大事なものなのか」
突然の義勇の質問にきょとんとしながら、炭治郎は答えた。
「はい。祖先がある人から受け継いだもので、俺はこの耳飾りを途切れさせず継承させる約束をしているんです」
「そうか」
きっと炭治郎なら何事も成し遂げられるだろう。
宿敵を討ち、鬼を滅殺すること。そして、鬼になってしまった妹を人間に戻すということも──。
今日見た夢は、現代からほど遠い未来なのかもしれないな。自分がこんなロマンティックな発想に至るとは思わなかったが、そうだと信じたかった。いつか我々もこんな平和な生活を送れるような未来が来るのだろうか、できることなら来世はこんな時代に産まれたい──と考え義勇は穏やかな気持ちになった。

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